はじめに:深刻化する人材確保・採用難の現状
人材確保・採用難は、今や日本企業、特に中小企業にとって最優先の経営課題となっています。中小企業白書2024によれば、有効求人倍率は1.13倍を超え、求職者よりも求人数が上回る「売り手市場」が続いています。
さらに、若手人材の大企業志向が強まる中、中小企業は「応募が来ない」「内定を出しても辞退される」という二重の苦境に直面しています。本記事では、この採用難を乗り越えるための具体的な戦略を5つご紹介します。
なぜ今、人材確保が難しいのか?
構造的な要因
人材確保が困難になっている背景には、以下のような構造的要因があります。
- 少子高齢化による労働人口の減少: 生産年齢人口(15〜64歳)は減少の一途をたどり、採用市場全体のパイが縮小しています
- 有効求人倍率の高止まり: 求職者1人に対して1.13件以上の求人があり、企業間の人材獲得競争が激化
- 若手の大企業・安定志向: 新卒者を中心に、知名度の高い大企業や公務員への志向が強まっています
- 働き方の多様化: リモートワークやフリーランスなど、従来の正社員雇用以外の選択肢が増加
中小企業が直面する固有の課題
中小企業は大企業と比較して、以下のようなハンディキャップを抱えています。
- 知名度・ブランド力の不足: 求職者に企業名を知られていない
- 採用予算の制約: 求人広告費や人材紹介手数料に十分な予算を割けない
- 採用ノウハウの不足: 専任の採用担当者がおらず、効果的な採用活動ができない
- 待遇面での競争力: 給与水準や福利厚生で大企業に見劣りする
人材確保・採用難を乗り越える5つの戦略

戦略1:採用ブランディングの強化
採用ブランディングとは、求職者に対して「この会社で働きたい」と思わせる魅力を発信する活動です。
具体的な施策
- 採用サイトの充実: 社員インタビュー、職場の雰囲気、キャリアパスを具体的に紹介
- SNSでの情報発信: X(旧Twitter)、Instagram、LinkedInなどで日常的に企業文化を発信
- 社員の声を活用: 実際に働く社員のリアルな声を動画やブログで公開
- 独自の価値提案: 「大企業にはない、当社ならではの魅力」を明確に打ち出す
知名度で勝てなくても、「共感」や「ストーリー」で心をつかむことは可能です。
戦略2:ターゲットの見直しと多様化
「新卒の若手」だけにこだわらず、採用ターゲットを広げることで、人材確保の可能性が大きく広がります。
多様な人材層へのアプローチ
- 中途採用の強化: 即戦力となる経験者を積極的に採用
- シニア人材の活用: 豊富な経験とスキルを持つ60代以上の人材
- 女性・主婦層: 時短勤務やフレックス制度で働きやすい環境を整備
- 外国人材: 技能実習生や特定技能外国人の受け入れ
- 副業・兼業人材: 週1〜2日勤務など柔軟な働き方を提供
ターゲットを広げることで、これまで見逃していた優秀な人材と出会える可能性が高まります。
戦略3:リファラル採用(社員紹介制度)の導入
リファラル採用とは、既存社員に知人や友人を紹介してもらう採用手法です。
リファラル採用のメリット
- 採用コストの削減: 求人広告費や紹介手数料が不要
- マッチング精度の向上: 社員が企業文化を理解した上で紹介するため、ミスマッチが少ない
- 定着率の向上: 知人の紹介で入社した社員は、帰属意識が高い傾向にある
成功のポイント
- 紹介した社員へのインセンティブ(報奨金)を設定
- 紹介しやすい仕組み(専用フォーム、定期的な呼びかけ)を整備
- 経営層が率先して制度の重要性を発信
戦略4:採用DXの推進
**採用DX(デジタルトランスフォーメーション)**とは、デジタル技術を活用して採用活動を効率化・高度化することです。
具体的なツールと施策
- 採用管理システム(ATS): 応募者情報を一元管理し、選考プロセスを効率化
- AI面接ツール: 一次面接をAIが代行し、人事担当者の負担を軽減
- データ分析: 応募経路や選考通過率を分析し、採用戦略を最適化
- オンライン面接: 遠方の求職者にも対応でき、応募者の裾野を広げる
- チャットボット: 求職者からの問い合わせに24時間自動対応
採用DXにより、少ない人員でも効果的な採用活動が可能になります。
戦略5:働きやすい職場環境の整備
採用活動と同時に、既存社員の定着率向上も重要です。せっかく採用しても、すぐに辞められては意味がありません。
定着率を高める施策
- 柔軟な働き方の導入: リモートワーク、フレックスタイム、時短勤務
- キャリア開発支援: 研修制度、資格取得支援、社内公募制度
- 評価制度の透明化: 頑張りが正当に評価される仕組みづくり
- コミュニケーションの活性化: 1on1ミーティング、社内イベント
- 健康経営の推進: メンタルヘルスケア、健康診断の充実
働きやすい職場は、既存社員の口コミを通じて求職者にも伝わり、採用力の向上にもつながります。
成功事例:中小企業の採用改革
事例1:地方製造業A社
従業員50名の製造業A社は、新卒採用がゼロという状況が3年続いていました。そこで以下の施策を実施。
- 採用サイトを刷新し、若手社員の成長ストーリーを動画で発信
- InstagramとYouTubeで工場見学動画を定期配信
- リファラル採用制度を導入(紹介成功で10万円支給)
結果、翌年には新卒応募が15名に増加し、3名の採用に成功しました。
事例2:IT企業B社
従業員30名のIT企業B社は、エンジニア採用に苦戦していました。
- 副業・兼業OKの制度を導入し、週2日勤務のエンジニアを募集
- 採用管理システムを導入し、応募から内定までのリードタイムを半減
- 技術ブログを開設し、エンジニアの専門性をアピール
結果、1年間で5名のエンジニアを確保(うち2名は副業からの正社員転換)。
まとめ:採用難は「戦略」で乗り越えられる
人材確保・採用難は確かに深刻な課題ですが、適切な戦略を実行すれば、中小企業でも優秀な人材を獲得することは可能です。
今日から始められるアクションプラン
- 自社の採用課題を明確化する: どの段階でつまずいているのか(認知、応募、選考、内定承諾)を分析
- 小さく始める: すべてを一度に変えようとせず、1つの施策から着手
- データを取る: 応募数、選考通過率、内定承諾率などを記録し、PDCAを回す
- 社員を巻き込む: 採用は人事部門だけの仕事ではなく、全社的な取り組みとして推進
- 外部の知見を活用: 採用コンサルタントやDXツールベンダーの力を借りることも検討
人材確保・採用難の時代だからこそ、採用活動の「質」を高めることが、企業の競争力を左右します。本記事でご紹介した戦略を参考に、ぜひ自社に合った採用改革を進めてください。
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